京都 四条高倉の占庭から

恋愛小説

今日は、大人も大人、堂々たる大人の恋愛小説をご紹介。

高樹のぶ子さんと言えば、恋愛小説の妙手。

お若い頃は、謎めいた雰囲気のある楚々とした美人作家としても有名でした。

ご自身もかなりドラマチックな人生を歩んでこられた方。

今の若い方には、それほど知られていないかな。

作品の中で、恋する主人公もたいがいは中年なので、ピンとこないかしら。

それでも、昔の映画を観るような気持ちで読んでみられたら、

案外引き込まれるかもしれませんね。

 

 

『エフェソス白恋』高樹のぶ子 

 

この作家にしか書けない恋愛小説。言うなれば、どろどろの絵空事。 

手練としかいいようのない、作品でした。 

これだけ、荒唐無稽なストーリーをこれまたまったくあるべき場所ではないところに

着地させる。まさに力技です。 

すごい、、、のひと言。

帯に「肉体に妨げられて滅び 肉体を超えて蘇る恋」と謳ってあります。

まさに、まさに。 

 

書き出しが、 

どうも私は、偏狭にしてロマンティスト、博学だと言われながら自分に

対する知識は皆無の、子供じみて、しかもいつまでも情熱や執着を

手放すことの出来ない性格に、生まれついているらしい。 

なんですね。 

これで、こう独白している主人公が女性だったら、

ここでもうこの小説をわたしは投げ出していたかもしれません。 

そして、

こういう男は、私の知るかぎり歴史上にはごまんといるものの、

この年齢になって周辺に類を探すことなど出来ず、

つまりは時代遅れの遺物と言えるのだろうが、

私が古代の探求を生涯の仕事としたのは、

こうして振り返ってみると至極当然だと言えるかもしれない。 

一度として天職などと思ったことはない。

いつだって自分は科学者には不向きだと認めてきたわけで、

その点では謙虚だった。

学者は謙虚でなくてはならず、芸術家は傲慢な凶器を隠し持っていても

許されるとするなら、私は傲慢な凶器を隠し持った学者というわけで、

はなはだ危険な気質を、いつも後ろ手に隠して生きてきたような気も

している。 

と続きます。 

 

この辺りで、もう絡め捕られて、このどうも世間知に欠ける、

当たり前の社会生活から逸脱してそうな、

一種ダメ男の匂いのする主人公の物語を追いたくなってしまうのです。 

 

久し振りに読んだ高樹のぶ子さんは、ますますディープな男と女の物語の語り手と

なってらして、ベールを被り、古びた怪しげなカードを繰るジプシー女を彷彿と

させるような、堂々たる女流でありました。

(2007/3/6)

『エフェソス白恋』(高樹のぶ子):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部