京都 四条高倉の占庭から

わたしの癒し

台風も逸れて行き、思ったほど雨も降りませんでしたね。

もっとジャブジャブ降るかと覚悟していたんですけれど。

 

最近、スピッツの「醒めない」を繰り返し聴いています。

目新しさはあまりないけれど、スピッツらしさたっぷりで心地よいです。

草野くんの声は、わたしにとって、どんなイケボよりも癒しであると、

またまた再確認でありますよ。

 

さて、わたしにとって癒しの作家さん、というのは、たくさんおられるのだけれど、

その中のひとりが、川上弘美さんです。

おそらくほぼ全作品を読んでいるはず。

一番好きなのは『ニシノユキヒコの恋と冒険』なのですが、

最高傑作は『どこから行っても遠い町』ではないかと思っています。

 

『どこから行っても遠い町』川上弘美  

 

ニシノくんも短編連作でしたが、遠い町も同様です。 

アプローチの手法の違いはあるけれど、作りとしては似ています。 

けれども、その短編のひとつひとつが、ぎゅうっと詰まっている。 

しゃばしゃばな化粧水ではなく、濃厚な美容液みたいな感じ。 

これは「川上弘美」のエキスを抽出した小説です。 

とても贅沢。 

もっと水増ししても全然大丈夫なのに、、、、

と読み手がケチくさいことを考えてしまうくらい。 

 

取材もきっときちんとなされたのだろうな、とわかります。 

まあ、どんなに”渾身の作!”であろうとも、川上弘美さんですから、

押し付けがましさも暑苦しさもないわけですが、

実力を遺憾なく発揮してあります、です。 

 

もう大絶賛したいです。 

刺激されるツボは、読む人それぞれでしょうけれど、きっと誰が読んでも

「ああ、、、、」と、忘れたフリをして生きていた深いところを

ぐりっとえぐられそうになるでしょう。 

えぐられても、鋭い痛みはありません。 

気づかなかったフリもできるくらいです。 

でも、かなりぎょっとするはず。 

そんな小説です。 

 

ある商店街の魚屋や居酒屋や喫茶店などにかかわる人々の、

11の物語がからんでいたり、いなかったり。 

それぞれの人生模様は、決して鮮やかではなく、華やかでもありません。 

それぞれが抱いている静かな不幸が、基調となって語られます。 

けれども、その不幸に救いがないわけじゃない。 

どこかが、決定的にズレているようで、

案外誰もがそんなズレた部分を包括しながら生きているもんやもんなあ、

と思えます。 

そのあたりが、ありえないようなお話なようで、妙にリアルなのです。 

 

ガンバレガンバレと、大きな旗をバタバタ振るような応援歌ではないけれど、

これは裏返しの応援歌ではないか。 

同じ本を読み返すことはあまりないわたしですが、

これは何度も読み返したくなるだろうな。 

そんな予感のする作品でした。 

(2009/7/18)