京都 四条高倉の占庭から

なぜ愛しすぎてはダメなのか

日曜日の朝のこと。

地下から四条大橋に上がると、歩道の人たちが手を振っているのが見えました。

いったい、何が??

と見ると、列を成して走っているバイク乗りさんたちが、

みんなサンタやトナカイの扮装をして、道行く人たちに手を振っていて、

信号待ちの人たちも、笑顔になり、彼らに手を振っていたのでした。

この風景は、以前にも見たことがあるので、もしかしたら毎年のことなのかな?

寒さが増してきた師走の街で、こころがなごむ風景でした。

こういうことに、たまたま遭遇すると、すごくラッキーな気分になりますね。

 

先日、久し振りに会った友人との会話で、映画の話になりました。

彼女がその名を知らない鳥たち』2017年に封切られたものです。

kanotori.com

映画好きの友人は、映画館で観ていたのですが、わたしはいまごろになって、

WOWOWの録画で。

(ネタバレしますのでご勘弁を)

 

あらすじはこちら。

15歳年上の男・陣治と暮らしながらも、8年前に別れた男・黒崎のことが忘れられずにいる女・十和子。不潔で下品な陣治に嫌悪感を抱きながらも、彼の少ない稼ぎに頼って働きもせずに怠惰な毎日を過ごしていた。ある日、十和子が出会ったのは、どこか黒崎の面影がある妻子持ちの男・水島。彼との情事に溺れる十和子は、刑事から黒崎が行方不明だと告げられる。どれほど罵倒されても「十和子のためだったら何でもできる」と言い続ける陣治が執拗に自分を付け回していることを知った彼女は、黒崎の失踪に陣治が関わっていると疑い、水島にも危険が及ぶのではないかと怯えはじめる――。

 

まあ、出てくる人、出てくる人、どの人もひどいんですよねぇ。

「イヤな女」十和子  蒼井優

「下劣な男」陣治  阿部サダヲ

「ゲスな男」水島  松坂桃李

「クズすぎる男」黒崎  竹野内豊

どの俳優さんも、好感度の高い人ばかりなんですけれど、役柄はサイテーです。

 

十和子は、タチの悪いクレーマーで、ストーカー気質で、イケメンというだけで、

見境なくメロメロになる、自立できない女。

陣治は、不潔で、がさつで、下品で、周りが全然見えない男。

水島は、見た目のよさを利用する、情のない女好き。

黒崎は、エエカッコしぃで、ルーズで、流されるままに堕ちていく暴力的な男。

要するに、みんな中身がスカスカな人ばっかりなんです。

他の登場人物も、どこかヘンだったり、明らかにおかしかったりしていて、

どの人に対しても、まったく共感できないんですよ。

こんな映画も珍しい。

しかし、このキャスティングがめちゃくちゃ嵌っていて、驚きます。

 

陣治(阿部サダヲ)は、ただひたすらに、一目惚れした十和子(蒼井優)を愛し、

十和子のためだけに全身全霊を捧げます。

十和子が生きているだけでいい、笑ってくれていたら最高にうれしい!

すべては十和子のために。十和子の望むままに。

 

そう聞くと「純愛」であり「無償の愛」であり、素敵じゃないか、

と思われるかもしれませんが、やっぱりそこまでいくと、

それは閉ざされた世界であり、狂気です。

 

友人が、

「陣治みたいに尽くされたら、好きでなくても、わたしやったらほだされてしまう。

 あんな風に愛されてみたかったなあ」

と言うのですが、たぶんそうはならないと思うんですよ。

男も女も、それほど好きでもない相手からどんなに愛されても、尽くされても、

それに対して、ほんとうに感謝したり、喜んだりはしないものです。

他の誰にも目移りせず、ただひたすらに相手を肯定し、求め、愛していたら、

相手はその上にあぐらをかくようになります。

何をしても、何を言っても、愛してくれる相手に、最初こそ驚いたり、

感動したりするかもしれないけれど、次第にそれは当たり前になり、

相手を軽んじるようになっていくんですよね。

という話をしてると、友人も、

「あ、そうかも。わたしも若いころ、相手が必死すぎる時は、

 どこか軽んじてたとこがあったなあ」

と言っていました。

この友人は情に厚く、また、情に流されるところもある、熱くて誠実な女性です。

その人をもってしてもこうなんですから、そういう感覚って誰しもがもっている、

人間のどうしようもない部分なのではないかと思います。

 

誰かを必死で愛しているときって、

「こんなにこの人のことを深く愛した人は他にいない」という自己満足や、

「死ぬほど好きな人がいる自分」に酔っていたりするところもあります。

そして、こう思うんですよ。

「いつかわかってくれる」

「喪ったときに、あんなに愛してくれた人はいない、と思い知るに違いない」って。

 

でもね、そんなことはないんです。

相手は一瞬そう感じたとしても、すぐに忘れてしまいます。

覚えてたって、そんなこともあったなあ、くらいですよ。

あれほどの衝撃にさらされた映画のなかの十和子だって、

ひと月もすれば忘れるんじゃないかと思います。

ひと月せずとも、イケメンと知り合ったら、その瞬間に忘れるのが十和子です。

 

で、何が言いたいかといいますとね、

滅私的な尽くし方、愛し方はしちゃダメ、ということ。

「ほっといて! これがわたしのしあわせなんだから!」

と思う人もあるかもしれませんが、それはダメなんですよ。

その恋はあなたの人生を豊かにすることはない、と断言しましょう。

 

って、いつもは「断言」をしないわたしが珍しいでしょ。

なぜかというと、自分が若かったときに、誰かがそう言ってくれていたら、

わたしの人生は変わってたかもしれないなあ、と思うから。

 

友人とも、同じことを言い合いました。

「なんで周りにいた大人が本気で叱ってくれへんかったんかなあ」って。

だけど、

叱ってもろても「わたしはこういう愛し方しかできない」とか言って、

いうこときかへんかったやろなあ~

とお互いに笑い合ったのでした。

 

ああ、今日は長くなってしまいました。

お読みくださりありがとうございました!