京都 四条高倉の占庭から

『ぼくは勉強ができない』

昨日、たどりつけなかった山田詠美『ぼくは勉強ができない』のお話。

山田詠美さんの本はたくさん読みました。

だけど、ファンかというと、それほどじゃあないんですけどね。

で、一番好きな作品が『ぼくは勉強ができない』なんです。

次に好きなのが『風味絶佳』。

山田詠美さんの作品は、長編も多いんですけど、わたしは短い作品が好きで。

 

で、『ぼくは勉強ができない』。

高校生の秀美くんは、祖父、母の三人暮らし。

母は未婚で秀美くんを産んで、祖父とともに育てているけれど、

「きっとふたりでおもしろがって育てたんだろう」と息子には思われているし、

「あばずれ」だとも思われている。

祖父も生涯、恋し続けると決めていて、散歩に行くのもそのため。

こんな3人だけれど、だれかがだれかを否定しているということはなく、

そこそこ自由に、けれど貧しく暮らしているんですね。

おじいちゃんの、

「貧乏はいいが、貧乏臭いのはいかん」というセリフが大好き。

(正確には「貧乏という試練は甘んじて受けるが、貧乏臭いのはお断りなのだ」)

ほんとそうですよねぇ。

同じようにわたしが常々思っているのは、

「安いのはいいが、安っぽいのはいかん」です。

 

この作品の好きなところは、

「こうでなくちゃおかしい」というような、

頭の固い考え方を一笑に付しているところです。

「みんなのように、あれもこれも持っていなければ・・・・」と

欲しいかどうかもわからないようなものまで、

不安にかられて欲しがるのは滑稽だなあと思わされます。

 

秀美くんは、自分は勉強はできないが、女にはもてる、

それ以上のことがあるだろうか、と思っていて、

その一点豪華主義的な割り切り方が爽快です。

もちろん、それだけでなんでもクリアできるはずもなく、

秀美くんなりに悩みもするわけですが、

そんなときの周りの大人たちがいいんです。

カッコつけてなくて、無責任なようで誠実でね。

世間一般の常識じゃなく、ちゃんと自分で考えて対峙してくれて。

 

成績が悪い、スポーツができない、家が貧乏、見た目が悪い、

受験に失敗した、就活がうまくいかない、

みたいに、ひとつのことに囚われてもうダメだ、、、、

なんて思っている人に読んでもらいたいですね。

人生はまっすぐな一本道を最短時間で、どこまで遠くまで行くか、

なんていうレースじゃないですし。

自分を責めるんじゃなく、自分のペース、自分の目的地、

何を一番大事にしたいのか、なんかをゆっくりでいいから、

自分の頭でちゃんと考えた方がいい。

 

わたしはこの家族が好きでね。

みんな自分の好きなことをしながら、家族のことも思いやっていて、

依存してないの。

アホそうでいて、実にクレバーです。

そこが好き。

 

他にも母子家庭モノでおススメしたい作品があります。

 川上弘美『光ってみえるもの、あれは』

 長嶋有『猛スピードで母は』

『ぼくは勉強ができない』とともに、わたしたち親子は、

これらでずいぶん救われた気がします。