京都 四条高倉の占庭から

夜の手紙

わたしが若い頃には携帯電話もなかったし、

もちろんメールなんてのもありませんでした。

電話は「家」に掛けるので、家族の誰が受話器を取るかわかりません。

異性のお家に掛けるのは、ドキドキで勇気の要ることでした。

メールはないから、手書きの手紙だけ。

郵送すれば届くのに1日~3日くらいかかったんですよ。

 

あの頃、携帯電話があればなあ~

メールがあればなあ~

実った恋もあったかもしれない、と思う反面、なくてよかったと

胸をなでおろすような思いもあります。

 

だってね、夜に手紙なんか書いてたら、

どんどんこっ恥ずかしい内容になっていきませんか?

もしくは、どんどん悪い方悪い方へと考えていって、

ああ、もう別れるしかない。その方があの人のため、、、、

みたいになったりしませんか?

昼間の自分とは違うメンタルになってしまってるんですよねぇ。

 

昔は夜に書いた手紙を翌朝読み返して、ボツにすることも多かったです。

なんでこんなに情熱的になってしもてるのか、

なんでこんなに悲観的になってしもてるのか、

我がことながら、赤面したり、理解に苦しむようなこともありました。

 

でも、今は書いたものが瞬時に送れて、即、届いてしまいます。

恐ろしいことですよねぇ。

翌朝、太陽が昇った頃に、穴があったら入りたい状態になることは

ないんでしょうか?

47年前の芥川賞作品『赤頭巾ちゃん気をつけて』に頻出する、

「もう舌かんで死んじゃいたい」になりそうですけど。

 

大変すこやかな情緒の持ち主であっても、夜に悩み事を考えて、

建設的かつ楽天的な展望が広がる人はいません。

ええ、もう断言しましょう。

いません。

そんな人がいるとしたなら、余程おめでたいか、

ほんとのところは悩んでいないかのどちらかでしょう。

ですので、悩んだり、煮詰まったりしている案件がありましたら、

夜にそれを考えるのはやめましょう。

「明日の朝になってから、もういっぺん考えよ」

と、もう無理くりに思ってでも、考えない努力をしてください。

いいですか?

考えない努力です。

難しいね。難しいんです。なにしろ悩んでるんですから。

でもそれくらい不毛ってことなんですよね、夜の考え事は。

なので、夜に思いつめている自分を見つけたら、

「夜はあかん!」

とまず思ってくださいね。

ま、どんな夜も、その内イヤでも朝が来ます。

朝日は実にまぶしく、偉大です。

けど、雨降りだったら、困るわねぇ。