京都 四条高倉の占庭から

『9月1日 母からのバトン』

四条大橋を渡るとき、鴨川上流の遥か先の山々を見て、

その冠雪具合で寒さを推しはかるわけですが、これがね、なかなかいいんですよ。

わたしにとっては、寒い寒い冬のたのしみのひとつとも言えます。

 

暮れから傷めていたノドも治り、やっといつもの声になりました。

毎年1月、2月は占い師の繁忙期ですしね。がんばらねばなりません。

年に一度のお客さまとたくさん会える季節でもあります。

数名グループでおいでになる方も珍しくないのですが、

多人数というところでは7名で、というご予約も頂戴しています。

さすがに一度に7名は、過去になかったと思います。

過去になかったといえば、先日猛者が現れたんですよ。

いい恋愛をしたい、素敵なお相手とめぐり会いたい、という方に、よく、

「ご自分を採点したら、百点満点で何点くらいだと思いますか?」

と尋ねるのですが、先日、

「120点!」と即答される女子が登場。

おおお、と一瞬たじろいでしまいましたが、なんと頼もしいことでしょう。

百点満点の百点を超える自己評価、すばらしいです。

占庭史上ダントツです。

こういうひとは、きっと何があっても前を向いて生きていかはるやろな、

と思えるのがいいですね。

聞いたわたしも元気をもらえました。

 

さて、久し振りに本の話を書きますね。

わたしの2023年の1冊目は『9月1日 母からのバトン』でした。

www.poplar.co.jp

タイトルの9月1日は、夏休みが明け、学校へ行きたくない子、行けない子が、

大勢亡くなってしまう日、ということです。

日本の小中学校生の死因第一位は自死

とりわけ9月1日は極端に多い日なのです。

樹木希林さん、内田裕也さんのひとり娘である内田也哉子さんは、

何にも縛られない、叱られない環境で育ちます。

そのあまりにも自由であることが、窮屈だったと述懐されていて、驚きました。

果てしない自由が窮屈。

当事者でないと抱けない感覚ですよね。

また、両親が規格外すぎたため、

この親の価値観だけを信じていては自分は社会で生きていけないかも、と思い、

 この判断は社会的にはどうなんだろう

 世間的に問題ないのか

と小学校高学年ですでに考えていたと言います。

「早く帰ってきなさい」「そんなところに行っちゃダメ」

と親から言われる友だちがうらやましかったのだそうです。

自由であるということは、判断も選択もすべて自分で決定していかねばならない

ということです。

たしかに子どもには重いものもたくさんあったでしょう。

 

也哉子さんの生い立ち、母・希林さんから聞いた話に加え、

「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」代表理事奥地圭子さん、

不登校新聞』の編集長・石井志昴さんとそのなかの当事者であったEさん、

「バースセラピスト」の志村季世恵さん、ロバート・キャンベルさんとの対談で

構成されています。

子どもを持たない人でも、不登校とは縁のない人であっても、

読んだだれもが概念を揺すぶられる内容だと思います。

命と教育というのは、社会にとっていちばん大切で守らねばならないものだ

ということを痛感します。

樹木希林さんは、生前、あらゆる出版の依頼を断ってらしたそうです。

けれども、9月1日のことは、もっと広く知られてほしいと切望されていた。

それが、樹木希林という名前を載せることで広まるのならば、

きっと快諾されたであろうと娘の也哉子さんも考え、この本が生まれたのです。

学校に行けない子どもたちに学校外の居場所・学び場を提供するフリースクール

東京シューレ不登校新聞など、学校に行けなくても誰かとつながる場はある。

就学していなかった人でも大人になっているし、生きる道はあるのだということを

知ってほしい。

その思いだけでできている一冊といえます。

たくさん考えさせられました。すばらしかった。

ポプラ社から出されたというのもとてもいいなと思いました。

多くの人に読まれてほしい本です。